2008年版バフェットの手紙(10)-3
原文はこちら→2008年版会長の手紙
今回も引き続き、デリバティブについての章です。
当社の契約は4つの大きなカテゴリーに分けられます。金融商品に興味を惹かれない方にはお詫びをしなければなりませんが、それらについて苦痛なほど詳細に説明をさせて頂きます。
● 私達は昨年の報告書で取り上げた「エクイティ・プット」ポートフォリオをわずかに増やしました。当社の契約の中には15年で満期を迎えるものもありますが、その他については20年満期となっています。満期の際にプットの対象となっている指数が契約開始時点の数値を下回っていた場合、当社はカウンターパーティーに対して支払いをしなければなりません。どちらの取引者も期日より前に決済を選択することは出来ません。重要なのは最終日の価格のみです。
分かりやすい例として、私達が10億ドルで15年のプット・オプションを、S&P500指数がたとえば1300のときに売ったとしましょう。もし満期日にその指数が10%下がって1170だったら、私達は1億ドルを支払うことになります。もし1300より上なら、私達は何も支払う義務はありません。私達が10億ドルを失うためには、指数はゼロになる必要があります。同時に、プットの売りは私達に好きな様に投資に使うことの出来るプレミアムを――おそらく1億ドルから150億ドルほどでしょう――もたらしてくれます。
当社のプット契約は合計で371億ドル(現在の為替レートで)であり、4つの主要な指数に広がっています。それはアメリカのS&P500種、イギリスのFTSE100種、ヨーロッパのEuro Stoxx50種、そして日本の日経平均225種です。当社の契約は2019年9月9日に最初の満期を迎え、最後の満期日は2028年1月24日になります。当社は49億ドルのプレミアムを受け取っており、それを投資に使っています。その一方で満期日がはるか先である為、当社は一切の支払いをしていません。それにもかかわらず、当社はブラック・ショールズ方程式を用いて、年度末の負債として100億ドルを計上しています。この額は報告日ごとに毎回変化します。2つの財務項目――[この評価損失額である100億ドル]-[当社が受け取ったプレミアムの49億ドル]――は当社が報告したこの契約における51億ドルのマーク・トゥ・マーケット損失を意味しています。
私達はマーク・トゥ・マーケット会計を支持しています。しかし、後でブラック・ショールズ方程式がオプションに伴う負債額の見積もりをする際の標準となっているにも関わらず、長期間の様々な価値評価を行なうと奇妙な結果を生み出してしまうと私が信じている理由を説明したいと思います。
当社の契約について時々理解されていないことについて一点、触れておきます。私達が危険にさらされている371億ドルの全てを失うためには、4つの指数全ての株式が様々な満期日にゼロにならなければいけません。しかし、もしも――例えばですが――全ての指数が各契約の開始日時点から25%下落し、外国為替レートが現在と同じままであったとした場合、当社が支払い義務を負う事になるのは90億ドルで、2019年から2028年にかけて支払うことになります。契約開始日からそれらの日までの間、当社は49億ドルのプレミアムを保有し、それに対する投資収益を得ることが出来るのです。
● 昨年の報告書の中で取り上げた2つ目のカテゴリーは、様々な高利回りの指数に含まれる企業の信用損失が生じた時、当社に支払いが要求されるデリバティブに関するものでした。当社の標準的な契約では100社を含み、5年間をカバーしています。当社は昨年、このカテゴリーのポジションをわずかに増やしました。しかし、もちろん、2007年末時点の帳簿上の契約は1年間満期に近づきました。全体では、当社の契約は現在2年4ヶ月の平均残存期間となっており、最初の満期日は2009年9月20日に訪れ、最後の満期日は2013年12月20日に訪れます。
年末までに、当社はこれらの契約に対して34億ドルのプレミアムを受け取り、5億4200万ドルの損失を支払いました。マーク・トゥ・マーケットの原則を用いて、当社は年末時点で30億ドルの将来の損失のための負債を記載しました。こうして当社はその時点で、支払い額及び将来損失の見積もり額の合計である35億ドルから当社が受け取った34億ドルのプレミアムを差し引いて求められる約1億ドルの損失を計上する必要がありました。しかし、当社の四半期報告書では、利益または損失の額は2008年第2四半期の3億2700万ドルの利益から同第4四半期の6億9300万ドルまで大きく振れてきました。
驚くべきことに、当社は昨年、これらの契約に対して私がこれらの契約を結ぶことを決断する時に使った見積もりよりもはるかに少ない、9700万ドルの支払いしかしませんでした。しかし今年は、大規模な倒産が急激に増えると共に、損失は鋭く加速度的に膨らむでしょう。昨年の手紙で、私はこの契約が利益を上げて満期を迎えると期待していると申し上げました。今では、景気後退が急速に深まっていくと共に、最終的な損失の可能性が増加して来ました。結果がどうであれ、皆さんにお知らせし続けるつもりです。
● 2008年に当社は個々の企業に対する「クレジット・デフォルト・スワップ」の引受けを始めました。これは単純な信用保険で、私達がBHACで引き受けている保険と似ていますが、免税債券保険ではなく企業の信用リスクを引き受けているという点が違っています。
もし、XYZという会社が倒産し、そして当社が1億ドルの契約を引き受けていたとすると、当社はXYZ社の借金の価値の相対的な縮小度を反映した額を支払う義務を負うことになります(例えば、仮にその会社の債券が債務不履行に陥った後で30ポイントの値がついていたとすると、当社は7000万ドルの支払い義務を負うことになります)。典型的な契約では、当社は5年間四半期ごとに保険料の支払いを受け取り、その後当社の保険は切れることになります。
年末時点で当社は42の企業をカバーする40億ドルの契約を引き受け、それに対して当社は年間の保険料として9300万ドルを受け取りました。これは当社が契約した中で唯一、カウンターパーティー・リスクのあるデリバティブのビジネスです。当社からこの契約を買ったパーティーは、5年間にわたって当社に支払う義務のある四半期ごとの保険金をきちんと支払わなければいけません。当社はこのビジネスをこれ以上拡大しようとは思っていません。何故ならこの保護の買い手のほとんどは今や売り手に担保を差し入れるよう要求しており、そして当社はそのような取り決めには関わりたくないからです。
● 顧客の要望に応えて、当社はBHACで引き受けているのと似た2、3の免税債券保険契約を引き受けましたが、それはデリバティブとして組成されました。この2つの契約の間の唯一の意味ある違いとは、デリバティブにはマーク・トゥ・マーケット会計が要求される一方で、BHACでは標準的な発生主義会計が要求されるという点です。
しかしこの相違はいくらか奇妙な結果を生み出します。デリバティブで保護された――事実上、保険がかけられた――債券は、大部分が国全体の債務であり、それについて私達は安心してみています。しかし、年末時点で、マーク・トゥ・マーケット会計によって当社はこれらのデリバティブ契約について6億3100万ドルの損失を計上する必要がありました。もし私達がBHACにおいて同じ債券を同じ価格で保証しており、保険会社に要求される発生主義会計を用いていたとすると、私達は昨年小さいながらも利益を計上出来ていたのです。私達が保証している債券に採用している2つの方法は最終的には同じ会計上の結果を生むでしょう。しかしながら、短期的には、両者間の報告利益の差異は相当な額になり得るのです。
私達は以前に当社のデリバティブ取引は、マーク・トゥ・マーケット会計を課せられているため、当社が報告する利益に大幅な変動をもたらすだろうと申し上げました。この上げ下げはチャーリーと私を励ましも悩ませもしません。実際、「下落」は私達に好ましい手段のポジションを増やす機会を提供してくれるという点で助けになるのです。私は当社の取引についてのこの説明によって皆さんも同じように考えるようになって頂きたいと願っています。
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バフェット氏は株主への説明をどうしてこれほど分かりやすく書けるのか、という質問に対して、
「自分の家族に事業内容を説明するつもりで書くのです。」と答えたそうです。
「自分の家族に事業内容を説明するつもりで書くのです。」と答えたそうです。
株主をパートナーとみなして、その道の専門家ではない人達にも分かるように説明するというのは、
バフェット氏の誠実さや株主への責任感が現れていると共に、自分が行なっていることを腹から理解しているからこそだと思います。
バフェット氏の誠実さや株主への責任感が現れていると共に、自分が行なっていることを腹から理解しているからこそだと思います。
バフェット氏のこうした所は、株式投資に限らず仕事やその他の実生活上の行動をとる時にも参考にしたいと感じました。
また、デリバティブ取引の財務諸表上の負債や損益を評価する際も、
金融分野では常識とされているブラック・ショールズ式を用いながらも、
実質的(最終的)な損失については異なった見方をしていることが分かります。
金融分野では常識とされているブラック・ショールズ式を用いながらも、
実質的(最終的)な損失については異なった見方をしていることが分かります。
デリバティブによる負債や損失は現時点でのフェア・バリューを下にしていますが、
現時点で現金流出を伴うものではなく、
仮にバークシャーの期待が外れても損失は限定的であり、
先に受け取ったプレミアムによる運用収益も考えれば、最終的な損失の可能性は低いと見ているようです。
現時点で現金流出を伴うものではなく、
仮にバークシャーの期待が外れても損失は限定的であり、
先に受け取ったプレミアムによる運用収益も考えれば、最終的な損失の可能性は低いと見ているようです。
会計ルールや世間一般でもてはやされている公式による表面的な数字がどうであれ鵜呑みにせず、会計報告上従いはしても、
投資・経営判断において本質的なリスクや損質、利益に関しては自分の頭で考えて判断するというバフェット氏の行動原則がよく現れていると思いました。
投資・経営判断において本質的なリスクや損質、利益に関しては自分の頭で考えて判断するというバフェット氏の行動原則がよく現れていると思いました。
デリバティブについての章はあと1回です。
バフェット氏の手紙の全文翻訳記事も、大分終わりに近づいて来ました。
もう少しだけお付き合い下さい。
(続く)