babooconの雑記

東京都在住、アラサー個人投資家のつれづれ日記。

「インフレがどれほど株式投資家から搾取するか」 by ウォーレン・バフェット④

バフェット氏が1977年にフォーチュン誌に寄せたインフレと株式についての記事の翻訳の続きです。


(前回の記事はこちら

収益を改善する5つの方法

私達は12%という株式のクーポンを不変のものと見なさなければならないのでしょうか?企業の株主資本利益率は永久に平均が高くなっていくインフレ率に反応して上方へ調整することは出来ないのという法則があるのでしょうか?

もちろん、そのような法則はありません。他方で、アメリカ企業は願望や神頼みで収益を増加させることは出来ません。株主資本利益率を上昇させる為には、企業は以下に挙げるうち少なくとも一つのことを必要とします。
(1)回転率、すなわち、売上高と事業に使用している総資産との比率を上げる
(2)より金利の低いレバレッジをかける
(3)より大きなレバレッジをかける
(4)収益に対する税率の低減
(5)売上高利益率を高める
です。

そして、それで終わりです。それ以外には株主資本利益率を高める方法はまったくありません。
それでは、これらについて何が出来るのかを見ていきましょう。

まずは回転率から始めましょう。この問題に関して私達が考える必要がある3つの大きな資産の種類は売掛金、たな卸資産、そして工場や機械といった有形固定資産です。

売掛金は売上が伸びるにつれ、その売上金額が実際の販売数量の増加によるものであれ、インフレによるものであれ、それに比例して増えていきます。この点について改善の余地はありません。

たな卸資産については、状況はそれほど単純ではありません。長期的に見れば、単位量当たりのたな卸資産のトレンドは単位当たりの売上のトレンドに追随します。しかし短期的には、実際の回転率は特別な影響―例えば、原価の見積もりやボトルネック―のせいで、大きく振れることがあります。

後入れ先出し法(LIFO)を用いるたな卸評価法はインフレ期において報告書上の回転率を増加させる働きがあります。金額ベースでの売上高がインフレによって増加しているとき、LIFOを用いている企業のたな卸評価額は一定の水準に留まることになるか(売上数量が伸びていない場合)、金額ベースでの売上高に遅れて上昇していくでしょう(売上数量が伸びている場合)。どちらの場合でも、金額ベースでの回転率は増加することになります。

1970年代の初期、企業がLIFOへと会計手法を変更する顕著な動きがありました(それは企業の報告利益および税金徴収額を減少させる効果がありました)。その傾向は今や弱まったように見えます。それでもまだ、LIFOを採用している企業は多く存在していることに加えて、他の誰かがその群衆に参加してくる可能性は、報告されるたな卸資産回転率が更に幾ばくかは増加するであろう事を保証しています。

増加は限定的になりそうである

有形固定資産については、インフレ率の上昇はどの程度であれ、全ての製品に等しく影響を及ぼすと仮定すれば、初めは回転率を上昇させる効果があります。それは売上高が新たな物価水準をすぐに反映する一方、有形固定資産勘定は物価の変化を徐々に、つまり既存の資産が除却され、新たな取得価格で置き換えられるにつれてのみ反映するからです。
当然、企業がこの資産の取り替えの過程をゆっくりと進めるほど、回転率は上昇することになります。しかし、この効果は取り替え周期が一段落すれば止まってしまいます。その後も継続的にインフレが続くと仮定すると、売上高と有形固定資産はインフレ率とともに上昇を始めることになります。

要約すると、インフレは回転率をいくらか増加させることになります。いくらかの改善はLIFOを用いることによって確実ですし、いくらかは(インフレが加速するとすれば)売上高が有形固定資産よりも早く増加することで可能になるでしょう。しかしそれらの増加は限定的なものになりそうですし、株主資本利益率を大きく改善させるほどの大きさにはならなさそうです。
1975年までの10年間、全体としてインフレは加速し、広くLIFOが会計手法に採用されたにも関わらず、フォーチュン500の回転率はわずかに1.18倍から1.29倍に増加しただけでした。

より金利の低いレバレッジはどうでしょうか?これも期待は出来なさそうです。高いインフレ率は概して借入金をより低コストではなく、より高コストにしてしまいます。高速で進むインフレはより緊急な資本の需要を生み出します。そして資金の貸し手はだんだん長期間の契約に疑念を抱くようになると共に、より多くを要求するようになります。
しかしたとえ更なる金利の上昇がなかったとしても、企業の帳簿に現在記載されている借入金の平均コストはそれを借り替えた時のコストよりも小さい為に、借入はより高くつくものになっていきます。そして借り換えは既存の負債の満期を迎えることになります。そして、概して言えば、借入コストの将来の変化は株主資本利益率を少し押し下げる効果になりそうです。

より多くの借入をするのはどうでしょうか?米国企業は既に、ほとんどではないにせよ、多くの企業がより借入をするというかつては有効だった弾丸を発射してしまっています。その問題の証拠は他のいくつかのフォーチュン500種の統計の中に見る事が出来ます。1975年までの20年間に、フォーチュン500種の総資産に対する株主資本の比率は63%からちょうど50%まで低下しました。別の言い方をすれば、今では株主資本1ドル当たり、以前よりもずっと多くの借入をしているのです。

資金の貸し手が学んだこと

インフレが引き起こす資金需要の皮肉は、高収益企業―概して最高の格付けを持っています―は比較的小さな負債しか必要としないということです。しかし収益性が低いといくら借入をしても十分ではありません。資金の貸し手はこの問題を10年前よりもよく理解しています。そして同時に資金需要が旺盛で、低収益性の企業に天高く借金を積み上げさせることを渋るようになっています。

それにも関わらず、インフレ環境においては、多くの企業が将来、株式リターンを高く支える手段としてさらに多くの借入を行なえるようになると確信しているようです。経営陣たちはそうした動きを自分達が巨額の資本を―しばしば単に実質的に同じ規模の事業を行なう為だけに―必要とするようになるだろうという理由で行なうでしょう。そしてその借入を、配当を減額したり、インフレの為に魅力的にはみえそうにない株式を発行したりすること無しに行おうとするでしょう。
彼らの自然な反応はほとんどコストに関係なく負債を積み重ねることです。彼らは1960年代に利率の8分の1ポイントについて議論をしながら、1974年には12%の借入を融通できて感謝している公共事業会社のような振る舞いをしがちです。

しかし、現在の金利で追加された借入は、株式リターンに1960年代の初め頃に4%の金利で借り入れた負債ほど株主資本利益率に影響を与えません。より高い負債比率は信用格付けの低下を招き、金利費用の更なる上昇を生み出すという問題があります。

それゆえ、既に議論してきたことに加えて、借入コストが上昇していくことがもう一つの問題です。全体としては、借入コストがより高くなることは、借入をより増やすことで得られる恩恵を相殺してしまうことになりそうです。

更に、米国企業には既に従来のバランスシートで示されるよりもさらに多くの負債を抱えています。多くの企業は現在の労働者達が退職する時の実際の支払い水準がどれほどであっても、それに合うように調整される巨大な年金債務を抱えています。
1955年から1965年にかけての低いインフレ率においては、そのような年金プランから生じる負債は合理的に予測可能なものでした。今日では、企業の最終的な債務は誰も実際には知りません。しかし、もしインフレ率が将来的に平均7%であると仮定すると、現在12,000ドルの収入がある25歳の従業員が、生活費の増加に見合う昇給をしていくだけで、65歳で退職する時には180,000ドルを必要とする計算になります。

もちろん、毎年、多くの年次報告書には驚くほど正確な数字が、積立不足の年金負債と称して記載されています。もしその数字が本当に信用に足るものであれば、会社は単純にその額を積み立て、既存の年金基金資産に加えて、その総額を保険会社に渡して、その会社の現在の全ての年金負債額を引き受けさせることが出来るでしょう。悲しいことに、現実の世界では、そのような取引に耳を傾けようとする保険会社さえ、見つける事は不可能です。

米国のほとんど全ての企業の会計係は“生活費”債―物価指数と連動したクーポンがついた、企業側に早期償還請求権のない債務―を発行するという考えを聞けば、たじろぐことでしょう。しかし個人年金制度を通じて、米国企業は実際にその様な債券と等価の、途方もない量の負債を抱え込んでいるのです。

より多くのレバレッジをかけることについては、従来の負債であれ、簿外でかつ物価スライド制の“年金負債”であれ、株主は疑いの目をもって見るべきです。
負債がない企業が得る12%のリターンは、眼球が質に入れられた企業が達成する同じリターンよりはるかに勝ります。それが意味するところは、今日の12%という株式リターンは20年前の12%というリターンよりもおそらく価値が小さいということです。