babooconの雑記

東京都在住、アラサー個人投資家のつれづれ日記。

「インフレがどれほど株式投資家から搾取するか」 by ウォーレン・バフェット⑧(最終回)

バフェット氏が1977年5月にフォーチュン誌に寄せた、インフレと株式についての記事の翻訳の続きです。

長かったこの記事も、これで最終回です。

(前回の記事はこちら

ロシア人もそれを理解した

それゆえに、インフレが投資に与える影響を通して裕福な人達が減少することは、実質的に裕福でない人達への短期間の援助にすらなりません。
彼らの経済的な幸福はインフレが経済に及ぼす全体的な効果と共に上下するのです。そしてその効果は良いものではなさそうです。

経済的な繁栄を得るには実物資本の大幅な増加、つまり現代的な生産設備などへの投資が必要不可欠です。たとえ労働力が豊富に供給され、消費者の需要が旺盛で、政府の政策が優れていたとしても、あらゆる産業で高価で新しい資本財が絶えず造り出され利用されない限り、人々は大変ないらだちを覚えることでしょう。
このことはロックフェラー一族のみならずロシア人も理解している方程式です。
西ドイツや日本ではこの考え方を応用し、驚くべき成功を収めています。エネルギー資源の面では我々(アメリカ)の方がはるかに有利であるにも関わらず、これら両国は高い資本蓄積率によって我々をはるかに超える速度で生活水準を向上させてきたのです。

インフレが実物資本の蓄積にどれほど影響を与えるかを理解する為には、簡単な数学が必要になります。
一瞬だけ12%の株主資本利益率の話に戻りましょう。その収益は減価償却費計上後の数字ですが、その減価償却費は推定上、現在の生産能力の取り替えを可能にします―工場や設備が将来、もともとの原価に近い価格で購入出来るとすればですが。

かつてのやり口

利益の約半分が配当として払われ、株主資本の6%を将来の成長に使えるよう留保すると想定してみましょう。もしインフレ率が低ければ―たとえば、2%としてみましょう―利益の留保による成長の大部分は物理的な生産の実質的な成長にすることが出来ます。
このような状況下では、2%は今年の物理的な生産力を維持する為だけに翌年に売掛金、たな卸資産、有形固定資産へと投資する必要があります。そして4%が商品を物理的により多く作る為の資産への投資の為に残されます。その2%はインフレを反映した実体のないドルの増加に対する資金を融通しており、残りの4%は実際の成長の為の資金を融通しているのです。
もし人口増加が1%であれば、4%の実質的な生産増加は実質3%の一人当たり純所得になります。これが、かなり大雑把ですが、私達の経済に起こっていることなのです。

それではインフレ率を7%に変更して、強制的なインフレの構成要素に資金を融通した後で実質成長のために何が残されるのかを計算してみましょう。
その答えは何もない、です―配当政策とレバレッジ比率の趨勢が変わらないとすれば。
12%の利益の半分が払い出された後、先ほどの計算と同じく6%が残されます。しかしその全てが前年と同じ物理量の事業を行なうのに必要な追加分のドルに供給する為に徴収されるのです。

多くの企業は、通常の配当を支払った後、実質的な拡大に資金供給するための実際の留保利益がなくなり、間に合わせで急場をしのぐことになるでしょう。
彼ら(経営者)はこう自問するでしょう;株主を怒らせることなく、配当をこっそり奪うか減らすか出来ないか?私には彼らに良い知らせがあります。うってつけの青写真があるのです。

近年、電力公共産業にはほとんど配当支払い余力がありませんでした。または、もっと適切に言えば、もし投資家が彼らから株を買ってくれるのに賛同するのであれば、配当を支払うことが出来たのです。1975年、電力公共会社は33億ドルの普通株配当を支払いましたが、投資家に34億ドル返還して欲しいと要求しました。
当然、彼らはCon Ed(訳注:コンソリデーテッド・エディソン社)と同じ悪評をこうむらないよう、ちょっとした「ピーターにポールへ支払ってくれと頼む」式のテクニックを織り交ぜていました。Con Edは、あなたも思い出すでしょうが、愚かにも1974年に株主に対して配当を支払う金がないと正直に告げ、その率直さは市場での惨事によって報いられました。

より世慣れた公共事業会社は四半期の配当を維持し―ことによると増加させ、そして株主に(古くからの株主にも新たな株主にも)そのお金を送り返すよう要求したのです。
言い換えれば、会社が新株を発行したのです。この手続きは巨額の資金を税収者に、そして株式引受業者に流しました。しかし、誰もが正気を保ったままのようでした(特に引受業者は)。

AT&Tでのさらなる歓喜

そのような成功に勇気づけられ、公共事業会社の中にはさらに手っ取り早い方法を考案するものも現れました。このケースでは、企業は配当の支払いを宣言し、株主は配当に対する税金を支払い、そして―何ということか―より多くの株券が発行されるのです。
他人の興を殺ぐ人はいつもそうですが、現金は移動することなくとも、その取引があたかも行なわれたかの様にしつこく繰り返します。

例えばAT&Tは、1973年に配当再投資プログラムを設けました。
この会社は、公平を期して言うならば、とても株主思いであると表現しなければならないでしょうし、このプログラムを採用したことは、資金調達の習俗を考慮すれば、まったく理解できるものだと見なさなければならないでしょう。
しかしこのプログラムの実態は不思議の国のアリスから飛び出てきたようでした。

1976年、AT&Tは290万人の普通株主に23億ドルの現金配当を支払いました。その年の終わりに、64万8千人の株主(前年の60万1千人から増加)は4億3千2百万ドル(3億2千7百万ドルから増加)を企業から直接供給される追加の株券に再投資しました。

ちょっと面白いものをみるために、AT&Tの全ての株主が最終的にこのプログラムに参加したと仮定してみましょう。その場合、現金は一切、株主の所へは郵送されません―ちょうどCon Edが配当を支払わなかった時のように。
しかし、290万人の株主達はそれぞれ、自分の持ち分である、その年に“配当”と呼ばれた部分の留保利益に対する所得税を支払うべき旨を知らされるでしょう。
その“配当”を1976年と同じく23億ドルだと仮定すると、株主達はそれに対して平均30%の税金を支払い、この素晴らしいプランのおかげで、7億3千万ドル近くも内国歳入庁に対して支払うことになります。
そのような状況下で、取締役たちが配当をさらに2倍にするといった時の株主達の喜びようを想像してみて下さい。

政府がそれに挑戦するだろう

企業が実物資本の蓄積の問題と戦っているとき、私達はもっと多くの、配当支払いを減らす偽装工作に出くわすだろうと予想されます。しかし株主への支払いを少々止めたところで、その問題は解決しません。
7%のインフレと12%の利回りの組み合わせは企業が実質的な成長のために融通できる資本の流入を減らしてしまうでしょう。

そしてそれゆえ、ありきたりの民営部門による資本蓄積の方法はインフレ下では影響力がなくなってしまうので、政府はイギリスのように失敗に終わるにしても日本のように成功するにしても、ますます産業への資本流入に影響を与えようと試みるようになるでしょう。
日本式の政府、企業、労働者の間の熱狂的な協力関係に必要な文化的・歴史的な基盤はここ(アメリカ)には欠けているように思われます。
もし運が良ければ、我々はあらゆる階層がパイを大きくすることにエネルギーを注ぐのではなくパイの切り分け方について言い争うような、イギリスと同じ道を辿ることは避けられるでしょう。

しかし、結局のところ、年月が進むにつれ、私達は投資不足、スタグフレーション、そして民営部門が需要を満たせないという失敗について、さらに多くのことを聞くことになりそうです。


ウォーレン・バフェットについて

この記事の著者は、実際、最近アメリカで最も目立つ株式投資家の一人である。彼は1960年代に投資パートナーシップを経営しながら2500万ドルの資産を築いて以来ずっと自己勘定で多額の投資を行っている。
オマハに本拠を置くバフェット・パートナーシップ・リミテッドは非常に成功したビジネスであったが、それにもかかわらず彼は先の10年間の終わりに事業をやめたのである。
1970年1月のフォーチュン誌の記事で彼の決断を説明している。「彼は、株式市場にはもう搾り取れるジュースは残されておらず、この先大きな利益が得られる可能性は非常に低いだろうと感じている。」

現在46歳のバフェットは未だにオマハから経営を行なっており、多様なポートフォリオ保有している。彼と彼の支配する企業は30を超える公開企業の持分を有している。彼の主な持ち株は、バークシャー・ハザウェイ(約3500万ドル相当を保有)、ブルーチップ・スタンプス(約1000万ドル相当を保有)である。
彼の知名度は最近ウォール・ストリート・ジャーナルでの人物紹介によって上昇しているが、それは彼の両社での現在の経営的な役割を反映している。両社とも幅広い範囲の企業に投資しており、そのうちの1社はあのワシントン・ポストである。

ではなぜ、株式について悲観的な人間がそれほど多くの株式を所有しているのだろうか?

“それが習慣になっているという面もあります。”と彼は打ち明ける。

“また、株式とは企業を表しており、企業を保有する事は金や農場を保有するよりもずっと面白いことです。さらに言えば、おそらく株式は、インフレ期に選択できるひ弱な手段の中では最も優れています。少なくとも、適正な価格で購入していればですが。”


社会の反映には不可欠な実物資本の蓄積をインフレが阻むことによる企業のジレンマ、
その為に資金流出を防ぐ為に企業が投資家に対して行なった「配当再投資プログラム」という名のペテンのような話・・・色々考えさせられました。

結局は、記事のバフェットの最後の言葉に全てが集約されるのかも知れませんね。